出 版 社:文 芸 社(03-5369-2299)(ISBNコード;4-8355-6631-9)
出 版 日:2003年 11月15日
電子ブック:http://www.boon-gate.com (2003年12月15日サイトUP)
◎ 装丁本 と 電子ブック の両方で出版されます。
書 評 紹 介
美しい衣裳、光溢れる舞台、まるで重力から解放されたかのような跳躍。総合芸術とまで言われるバレエの世界は一見、華やかの極みだ。だが、その中で踊るダンサーの肉体は非常にシャープで無駄がない。本作品にはそのバレエダンサーのようなストィックさを感じた。
作中に登場する人物はふたり。ルーマニア生まれのダンサーと著者自身である。それぞれ“愛に溢れた普通の家族”ではない子供時代を過ごし、バレエに救いを見出していく。特に著者は1度目の結婚によって厳しい父親の管理下を飛び出し、自由を知ることで人間的に成長していく。とうとう戦中のクロアチアに単身渡るまでになる強気の行動は運にも味方されたようだ。「彼」との出会いによって充実した仕事をする事ができるようになる。そしてついには二度目の「苦しくも輝かしい離婚」によって何よりも自分自身を愛すること、自分の人生を美しく彩る方法を知る。家族のあり方、愛のあり方について考えさせられる作品であった。
舞踊家である著者が、父との葛藤や二度の離婚、摂食障害をくぐりぬけた後に、まわりの人をも幸福にする人間でありたいとの意を新たにするまでの40年を回顧した人生録といえる。ただ、本作が数多くある回顧録と一線を画すのは、単に顧みるのでなく、辛く厳しい経験、心の内の混濁を紐解くようににして、「愛」の本質に迫っている点にある。その中で、著者は「離婚」が「誇りに満ちたもの」と言い切っているが、この誇りが指すのは、苦しい経験をも成長を助ける糧に変えてきた、その過程の集積たる現在の自己への「誇り」だ。揺るぎない強い心を得た著者が深めた「愛」の内実は、芳醇な時を重ねた力強い説得力を生み出している。
著者の人生に大きな影響を与えたのが著者の父である。著者がバレエを続けてきた一つの原動力に父への反発心がある。彼の愛情が家族の負担になるほど自分勝手になっていることを理解しない父とそこから逃げ出したい娘。著者は父親から離れることのできる唯一の道として、バレエにすがったようにも読める。けれども、決してバレエに逃げたのではなく、自分を過酷な状況に追い込むことで、より美しいダンサーへ近づくことに著者は恍惚感に浸るような喜びを見いだしたのだ。また、長年心の通い合いのなかった父とも、2度目の結婚相手によって、暖かい家族の絆が初めて芽生えたことは、素晴らしい。家族や夫への著者の愛情の深さは直接は語られないが、このとき心から喜びを得たであろうことが十分にうかがえる。
著者の体験してきた「愛」の世界、それは家族との葛藤であったり、2度の結婚で得た情熱であったり、人生を謳歌するための自己愛であったりと姿かたちは様々であるが、それら愛を縦糸とすれば、バレエという芸術がそれらを繋ぐ横糸であろうか、2種類の糸で織り上げられた豪華絢爛なタベストリーのような作品である。どれが欠けても「人生の奥行き」を語れない大切なピースであり、それらがあるからこその著者の世界であろう。この世界観にぜひたくさんの人々に触れて頂ければと願う。
